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連載 独立開業までの道のり(第16回)

~40にして、立つ~

「この連載は新卒で就職に失敗し20年以上に及ぶ試験勉強生活の末、
税理士・社労士資格を取得し苦節46歳にしてようやく悲願の個人事務所開業を
果たした男の資格取得を決意してから独立開業までの壮絶な過程を
複数回にわたって投稿していくものである」

Back in 2017

新たな職場で怒涛のような1年が過ぎ、今度は大学院の修士論文の作成が佳境を迎えました。

年明けすぐの提出期限に向けクリスマスも年末も正月もなく許せる時間のすべてを
論文の追い込みに費やす日々が続きました。

事務局で数々の誤字脱字を指摘されあっちを直しこっちを直しを幾度となく繰り返し
た結果、無事に提出が完了。

月末の最終試験は鼻風邪を引いて最悪の体調の中で臨みましたがその席で指導教授か
ら論文のタイトルが良くないと修正を指示されるというまさかのどんでん返しが。

「今になってなぜ…」

と、疑問と憤りの念を禁じえませんでしたがここは素直に従い無事合格、
大学院でのすべての過程が終了し晴れて卒業が決定いたしました。

本当に集中して論文を作成したのは正味半年ほどでしたが大学時代も卒論というもの
に縁がなかった身としてはやり遂げた充実感は格別でした。

大学院生活の集大成である修士論文

事務所では前年の税理士試験終了後から税務部長という名の管理職となり実務面すべ
ての陣頭指揮をとる立場となっていました。

手始めに1月の定型業務ではすべての顧客をリストアップしたチェック表を作成、
業務の進捗状況を常に可視化できるようにしました。

そして1月も終わろうとしたある日、専門学校の求人媒体経由で正社員の応募があり
上席とともに採用面接の場に同席しました。

税理士試験5科目合格を果たしたばかりで、合格発表直後から税理士事務所に絞って
就職活動をしていたものの30歳を過ぎた年齢と実務未経験、かつ、アルバイトのみ
でしか社会人経験がなかったことが災いしてなかなか内定を得られなかったとのこ
と。

5科目合格者が面接に来ること自体が想定外でしたが知識面の豊富さは言うまでもな
く真面目で純朴な人となりを高く評価、面接中に中座したうえで上席と相談しその場
で採用の内定を出しました。数日後、本人からもお世話になりたいとの連絡があり入
社が決まりました。

待望の後輩職員の入社、しかも税理士有資格者とあって社内の期待も膨らむばかりで
した。早速、会計入力の手伝いから始めてもらいましたが前年に退職した若手社員の
件での反省から人にお願いする業務は自分が直接担当する先で具体的な業務指示が出
来る先に限定、本人もやる気と潜在能力の高さを発揮し日々成長していく姿に上席と
ともに目を細める日々が続きました。

とは言え、ルーキーであることに変わりはなく人員面では依然、不安が残ったまま確
定申告期に突入することとなりました。

経験者の募集は続けるも採用は結局無く、前年の二の舞を覚悟していていましたが、
過去に長らく正社員として在籍し今は遠方に在住している女性が助っ人として加わっ
ていただけることに。
今でいうリモートワークのはしりとも言え自分が本社での窓口役を担いながら上席か
ら振られた案件を消化していただくことになりました。

ボリュームある案件を次々とこなしてくださったのに加え、自分自身も2年目という
慣れもあって連続勤務に変わりはなかったものの期限内に無事、すべての顧客の申告
を終えることが出来ました。

繁忙期が終わり引き続き新人教育に重きを置きながら業務を進めることになりました
が、前事務所時代は在籍していた8年間のうち6年目までは後輩がおらず部下の採用
や教育を直接手掛けるのは今回が実質初めての経験でした。

自身の業務をこなすのと並行して部下の教育をするのは想像以上に時間と労力を要し
戸惑いも多々ありましたが早く戦力として1本立ちしてほしい一心でつきっきりで説
明に明け暮れ本人も着実に業務を吸収、時折マニアックな税法の規定を披露するな
ど、知識面では逆にこちらが教わる場面も。

自身の担当件数も増える一方でしたが前出の元正社員の女性に引き続きサポートして
いただくこととなり支所のパート女性と合わせて会計入力要員が増えた結果、順調に
業務が回転するようになりました。

それによって自身の業務もだいぶ落ち着き、試験直前の7月には半休をとって途中退
勤し専門学校へ自習しに行けるまでになりました。

税理士試験の後に立ち寄った神楽坂の老舗甘味処「紀の善」残念ながら令和4年閉店。

そして税理士試験終了後、私生活面でひとつの大きな決断をいたしました。
生誕以来続いた実家住まいにピリオドを打ち一人暮らしを始めることに。

給料の一部を生活費として入れてはいたものの料理家事はすべて家族任せ。
いい年して親のすねかじりはよくないと思ったのと資格取得を含めた色々な面で
現状を打破するべくまずは環境を変えて日々の生活に刺激を与えたいとの思いから
の行動でした。

それ以降、日々ネットを検索し物件探しに明け暮れましたが候補はあがるも予算や場
所の面で折り合いをつけられず決めかねていた中、父の知り合いである池袋の地主の
方の所有物件に空き部屋が出たとの連絡があり早速、一緒に視察に出かけました。

家賃額は予算をオーバーしていましたが駅から徒歩5分ほどの好立地もあって決断し
ない理由は無いと思い即日、入居の申込みをいたしました。
懸念していた家賃も父の顔もあってか先方のご厚意により特別に希望額以上の割引に
応じていただけました。

契約後は近くのビックカメラやニトリで家電や家具を買い込んでは部屋に持ち込み、
週末は実家との往復を繰り返しながら着々と新生活への準備を進めました。
そして11月初旬、すべての引っ越し作業が完了し池袋での新生活がスタートしまし
た。

江戸川区役所に転出届を提出した帰りに実家に立ち寄り両親と実家での最後の夕食を。
新居に帰る途中まで犬の散歩がてら両親とともに駅に向かいました。
別れ際に何かを悟ったのかいつまでもこちらを見つめる愛犬の顔が忘れられませんでした。

40歳にして初めて経験する一人暮らし。1日に何度も足りない生活用品を買いに行っ
たり、実家では一度たりともやらなかった料理にチャレンジしたり、深夜近くに駅前
にラーメンを食べに行ったりと解放感もあってか何もかもが楽しく新鮮な気分でし
た。

部屋の窓からサンシャイン60をのぞむ
同級生3人との引っ越しお祝い会の様子

しかし、ほどなくしてやってきた12月の合格発表はまたまたまた恒例の不合格。
発表日は奇しくも事務所の忘年会の日と重なり深夜近くに帰宅後、ポストを開けて
結果を見ることに。

夢見心地な気分から残酷な現実に引き戻され、気が付くとひとり狭いエントランスに
呆然と立ち尽くしていました。

これで消費税法は4回連続の不合格。
すべてA判定ではあったものの合格には何かが足りない現状に苦虫を噛み潰す思いで
した。

そして試験勉強でも来年に向けて流れを変えるべく思い切った決断をしたのでした。

つづく