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連載 独立開業までの道のり(第23回)

~裏切り者の名を受けて~

「この連載は新卒で就職に失敗し20年以上に及ぶ試験勉強生活の末、
税理士・社労士資格を取得し苦節46歳にしてようやく悲願の個人事務所開業を
果たした男の資格取得を決意してから独立開業までの壮絶な過程を
複数回にわたって投稿していくものである」

Back in 2022

不合格が決定した夜、今後の進退について妻と話し合い。

今の職場環境では試験勉強に集中することは無理で合格は到底望めないことが
今度の今度こそ身に染みて分かり可能な限り早期に事務所を退職する決意をいたし
ました。

一方で収入が減少することへの不安も拭えず別の事務所に転職し働きながら試験勉強
を続けるか、試験勉強のみに専念するか退職後の身の振り方については結論が出せず
にいました。

会計業界専門の転職サイトに登録し早速、いくつかの事務所からオファーを受けた
もののどこも似たり寄ったりの勤務条件。

すでに45歳となった自分に試験勉強に配慮した雇用形態を提示してくれる事務所は
ほぼ存在しないことが分かり、転職の選択肢はその時点で排除されました。

知り合いの開業女性税理士先生とLINEのやりとりをしたところ

「試験は結局、準備にどれだけ時間をかけることができたかに尽きると思う。

自分がその状況だったら試験までは勉強に専念して試験後にその先を決めるかな」

とメッセージが。

懸念していた収入面については妻が年明けから社会復帰すべく就職活動を開始するこ
とでひとまずは乗り切れると判断し決意は固まりました。

迎えた週明け月曜日の朝、早速上席へ結果報告がてら来年の3月限りで退職したい意
向を申し出ました。

「最長でも3月いっぱいというのは話が急すぎる」

と焦ったような反応でしたがこちらの意向は受け取ったうえで結論については
年明けにもう一度話し合いをして決めようということになりいったん打ち止めに。

年が明け退職の意向は変わらない旨を伝えると再度上席から

「人がいない中で急に辞められるのは困る」

と言われたうえで

「退職ではなく4月から試験日までの間、休職扱いにして勉強に専念してみては?」

という新たな提案を受けました。

しかし休職扱いにしたところで本末転倒な状況になった前年の二の舞となることは火
を見るよりも明らかでしたし、そのことが退職への決定打になったことは言うまでも
ありませんでした。

「後任候補もいない状況でこれだけの数の案件を3月まででどう手じまいするつもりだ?」

と声を荒らげられる場面もありましたが3月末での退職以外応じる意思はなく、
いかなる批判も受け入れる覚悟でした。

試験勉強の方はこれまでの通信講座での受講からもう一度基礎からやり直したいと
数年ぶりに教室講座を申し込み。

初学者向けのコースではありましたが実際に講義を受け始めると案の定、理解不十分
の項目が次々に明るみに出て知らず知らずのうちに基礎力が抜け落ちていたことがわ
かりました。

これまでいかに独り善がりの学習をしていたかを思い知らされショックでしたが
教室講義に切り替えたからこそ気づくことが出来たと捉え穴を埋めるべく提供され
た教材を漏れなくひたすら繰り返すことに終始しました。

さらに日曜日の午前に通学が強制的に組み込まれることにより新たな生活リズムが
出来たうえ、生講義による緊張感で学習に取り組む真剣度がより深まっていきまし
た。

決死の覚悟で通った大原池袋校
教材のひとつである理論サブノート

退職の意向を伝えた以降も事務所内の雰囲気自体さほど変化は無く淡々と粛々と
仕事を進めていましたが昼休みは周囲へのいたたまなれなさから会話の輪には加わら
ず昼学習と称してあえて外食するよう努めました。

昼活で通ったサンマルクカフェ田町駅前店
ベローチェでの朝活も変わらず継続

2月になると支所の方で会計事務所歴20年超の女性職員が入社。

豊富な職務経験から目前に迫った確定申告の主戦力として大いに期待されまし
たが内勤が主で顧客訪問をした経験がほとんど無かったため自分の後任として
担当業務をそっくり引き継ぐことはさすがに難しい状況でした。

繁忙期も目前に控えていたこともあって早く後任となるべき人材を入れてほしい
という願いとは裏腹に他に採用は進まず例年依頼していた派遣の臨時要員の採用も
この年はなし。

これについては上席から

「今回の確定申告については今のメンバーで乗り切りたい」

とのお達しが。

結局、これまで通りの担当先をこれまで通りに手掛けることになりましたが
こちらの心情も配慮してもらい土日祝日については在宅での業務を認めていただき
ました。

くだらない妄言を吐き散らすな。ただでさえ若手が育たず辞めすぎるから柱はいっこうに空席のままだ。 

繁忙期中の日曜日は午前中に大原で講義を受講した後、トンボ帰りで在宅ワーク。
講義の復習はほぼ進みませんでしたが3月末まではとにかく業務最優先でと最後と
なった確定申告に全力で取り組みました。

社労士の勉強会で知り合った方から個別に確定申告を受けるという嬉しい
ご依頼もありましたが連日連夜の残業に次第に家庭内もピリピリムードに…

心身ともにほぼ限界に近づくも3月いっぱいまでの辛抱となんとか持ちこたえていま
したが退職予定日まで1か月足らずとなった時点でも新たな人材の採用は無く、
引継ぎについても具体的な指示がされず気をもむ日々。

ついに痺れを切らし自ら上席に掛け合ったところ

「当面は今いる人員で人海戦術で回していくので顧客ごとに適任候補を挙げてほしい」

との指示が。

いささかの疑念を持ちつつも顧客それぞれの癖や相性も考えて引継ぎ案を作成。

ようやく引継ぎの挨拶に回る日々がスタートしましたが確定申告も手掛けながらの
訪問と先方との日程調整もあって3月中にすべての担当先について引継ぎを完了させ
ることは難しい状況に。

あらゆる対応がもう派手派手ならぬ、後手後手だ~

周囲からは

「ズルズル引き延ばされないで早く勉強に専念できるようにしないと」

「急に辞めるわけではなく3カ月も前から言っていたのだからそこまで義理
を通す必要はないのでは?」

「辞めた後のことは経営者が考えることじゃない?」

「もっと自分のことを大事にしなきゃ」

等、気にかけてくれてるが故の意見でしたが前事務所を退職した時のように
その場限りで感情的に反発しても話が進まないため、形式上は3月31日限りで退職と
するものの、積み残した案件については4月以降も必要最低限の対応をすることで
折り合いをつけました。

4月初旬、税務署OBの先生方が送別会を兼ねて食事会に招いてくださました

以降、試験勉強と並行しながら事務所には臨時アルバイトとして4月は週3日~4日、
5月は週1日~2日のペースで出社あるいは在宅ワークで残務を消化し完全に対応が
終了したのが5月25日。

本来の退職日から遅れること約2か月、ようやく勉強一本に専念出来る生活となり
ました。

6月に入り講義はすでに直前期に突入、毎回教室で模擬試験を受験するも成績は振る
わず焦る日々が続きましたがやるべきことはやっていると言い聞かせ愚直に学習を積
み重ねていきました。

移動の最中も二宮金次郎の如く常に理論集を手に歩行しながら暗記を実施。
寸暇を惜しみ諦めず投げ出さず最後の最後の最後まで負けない意気込みで頑張りまし
た。

節約のため昼食は自作おにぎり
ニノキン学習のお供だった理論サブノート(ポケット版)

そんな折、実家から愛犬マメ太郎が旅立ったとの悲しい知らせが。

我が家に迎え入れてから1年間は寝たきり状態だった祖母がまだ存命で特に母にとっ
ては過酷で先の見えない介護生活の中でマメが心の癒しになっていたことは言うま
でもなく、やんちゃで甘えん坊な性格で我々家族を楽しく幸せな気持ちにさせてくれ
ましたし、なによりマメ自身にとっても生涯愛され可愛がれ続けた幸せな一生だった
と思います。

享年14歳10か月。皆に愛されながらの旅立ちでした。

家族の一員を失った悲しみに暮れながらも残された時間で懸命に勉強に励み
1週間あたりの学習時間も週を重ねるごとに増えていきました。

そしてあっという間に本試験当日。

裏切り者の名を受けてすべてを捨てて戦いの場である試験会場へ。

運命の2時間がついに始まってしまいました。

つづく